#8 覚悟をもって向き合うということ。二ノ宮知子『のだめカンタービレ』
こんにちは。kazuです。ご無沙汰してます。すみません。
今日はこの作品から「覚悟」について考えてみたいと思います。
クラシック音楽人気を引き上げた作品
アニメ化・実写ドラマ&映画化し、大ヒットしたこの『のだめカンタービレ』。
「クラシック音楽」という、とっつきにくいジャンル(クラシックやってるみなさん、ごめんなさい!!)であるにも関わらず、そのとっつきにくさを感じさせない作風で、普段クラシックなんて聞かないような人にも人気です。
この作品でクラシックの曲を初めてきちんと聞いた! という人も多いのではないでしょうか。
こういう作品は、とっても貴重です。そして、すごく重要。
なぜなら、自分の世界を広げてくれるから。この作品で言えば、クラシック音楽を聴く、ピアノやバイオリンを始める、フランス語を勉強する……etc。
作品だけじゃなくて人にも同じことが言えます。例えばこの間引退された浅田真央さんとか。真央さんを見てフィギュアスケート始めた子が世界に何人いるか、って話ですよ。すごいです、ホントに。
話がずれてしまいました。
とにかく、こういう刺激的な作品が世の中にもっと増えればいいのにと思います。フェンシング漫画とか、大ヒット作が出ればいいのになあ。全力で応援するので、誰か描いてください。
この作品との出会い
私とこの作品の出会いは、のだめブームが落ち着いてしばらくたった、高校の時。
高校の時の音楽の先生が、アニメ版の『のだめカンタービレ』を教材として使っていて、毎週音楽の時間は『のだめ』観賞会だったんです(笑)。それから興味を持って、漫画も読むようになりました。
最高のバランス感
『のだめカンタービレ』は、指揮者を目指す天才音大生・千秋真一(通称:千秋先輩)がピアノの天才・野田恵(通称:のだめ)と出会ってから、その才能と生態に振り回されつつ、音大生活を経て留学し、音楽を仕事にするまでを描いたお話です。
クラシック本格ラブコメ! と巷では紹介されているようです。巧く言ったもんだ。
シリアスとコミカルのバランスが最高にいいんですよね。
シリアス、というか本物感を最も感じるのはやはり音楽の描写。音楽の先生が教材に使うくらいですから。吹奏楽をかじっていた私も、違和感を抱いたことはありませんし。
特にコミカルだなーと思うのは、登場人物濃すぎるキャラ設定。私は、ずっとクスクス笑いながら読んでました(笑)。特にのだめと、それに振り回される千秋先輩。二人のドタバタシーンは何度読んでも面白いです。
一番強調して描かれているのは、「覚悟」
音楽に関してすごく本格的な描写がなされているこの作品。しかし、私がこの作品から一番感じ取ったのは、音楽云々のことではなく、「覚悟」なんですよね。
詳しくは読んでいただきたいのですが、この作品の登場人物は主に音大生とプロの音楽家。音楽を生業とする(もしくは、しようとしている)人たちのお話です。
どんな仕事でもそうだと思いますが、「覚悟」が必要です。
うまくいかないこともあるし、楽しいことばかりじゃない。音楽家は特に、食べていけるかどうかが保障されていません。実力がモノをいう世界。それがとても厳しい世界であることは、想像に難くありません。
この『のだめカンタービレ』は、そういうことを逃げずに描いています。しかも、その描き方が秀逸。のだめというダメダメキャラを通して、少しずつ、ゆっくり「覚悟」が出来上がっていくのを描いているんですよね。
「覚悟」っていったい何なんだ
「覚悟」という言葉を何度も引用していますが、「覚悟」ってそもそも何なんでしょうか? まずは定義を確認せよ、ですね。大学でもよく言われますが。こういうときはやっぱりグーグル先生に聞いてみましょう。
かくご【覚悟】
悪い事態(に多大の努力がいるの)を予測して心の準備をすること。 「―はよいか」- 仏教
迷いを去り道理を悟ること。
なるほど。覚悟は心の準備の事なのですね。この意味に当てはめると、『のだめ』の場合、音楽家は、「食いっぱぐれるかもしれない」ということをちゃんと予測して心の準備をせよ、という感じでしょうか。
私の「覚悟」観を変えた作品
私の「覚悟」に対する見方を変えた作品があります。それがコレ。
2025年。兄は、もう一度だけ自分を信じた。筑波経由火星行きの物語がはじまる! 本格兄弟宇宙漫画発進! 幼少時代、星空を眺めながら約束を交わした兄・六太と弟・日々人。2025年、弟は約束どおり宇宙飛行士となり、月面の第1次長期滞在クルーの一員となっていた。一方、会社をクビになり、無職の兄・六太。弟からの1通のメールで、兄は再び宇宙を目指しはじめる! (Amazon商品紹介より)
映画化もアニメ化もしたヒット作なので、ご存知の方も多いでしょう。
要は宇宙飛行士を目指すお話なんだけど、これがアツい!!!!!!
夢を追うかっこいい大人たちが描かれています。
そして、夢を追う難しさも同時に描いています。
未読の方はぜひ読んでほしい、おすすめの一作です。
「死ぬ覚悟はあるか?」
これは有名なシーンなのですが、第6巻にこんなシーンがあります。
舞台は、JAXA最終試験の打ち上げ。宇宙飛行士の吾妻さんに、主人公ムッタは
「死ぬ覚悟はあるか?」
と問われます。
ムッタははじめ、「と、当然覚悟はありますとも!」と答えるのですが、その後すぐに訂正します。
「ウソつきました。本当は、死ぬ覚悟…出来てないです。多分『こりゃもう死ぬな?』って瞬間が来たとしても、ギリギリまで『生きたい』と思いそうです」(小山宙哉『宇宙兄弟』第6巻)
吾妻さんは、この答えを聞いて、先輩宇宙飛行士ブライアンとの会話を思い出します。
ブライアン(以下、BJ)「『死ぬ覚悟』ってある?」
吾妻「…ブライアン、宇宙飛行士としてプライドの無い答えかもしれないけど、死ぬ覚悟はありません。考えるなら生きる事を考えます」
BJ「そうか。それでいいぞアズマ。たいていの宇宙飛行士はYESと答えるけどな、口では何とでも言える。薄っぺらいYESだ。死ぬ覚悟なんていらねえぞ。必要なのは『生きる覚悟』だ。NOと言える奴がいたら、そいつは信じていい」
死ぬ覚悟なんてできるわけない
「死ぬ覚悟はできてる」
いやー、かっこいいセリフです。ドラマでもよく出てきます。一度は言ってみたい。
でも、『宇宙兄弟』のブライアンも言ってますけど、ホントに「死ぬ覚悟」なんてできるわけないですよ。覚悟ってそんな簡単にできるもんでもない。だから、ドラマチックなのか? それでも、「覚悟」の重さがわかってたら、そんなに簡単に吐けるセリフじゃありません。
というのも、私が最近落車事故にあって思ったことなのですが。
私は今、ツーリングメインのサイクリングをしていて、坂を上ったり下ったりする練習もするのですが、つい最近、ある坂を下っている途中で、落車したんですよね。ロードバイクとか長く乗ってる人には珍しい話じゃないですけど。
幸い、歩道の街路樹に突っ込んで転んだ、ということもあって、少しのあざと擦過傷で済みましたが、その時の恐怖はもう忘れられません。
もし、転んだ場所が車道だったら。
もし、歩行者を巻き込んでいたら。
もし、打ち所が悪ければ……
最低でも時速30キロほどは出ていたみたいなので、一歩間違えば何が起こっていたかわかりません。人生で初めて、心の底から、「生きててよかった」と思いました。
私がこの体験から何を言いたいかというと、
分かっててもやっぱり覚悟はできない、
ってことです。
私も、事故が起これば死ぬ可能性だってあることは分かってました。
「危なくない?」って友達にも言われたし。
危険を織り込み済みで乗ってたんです。でもやっぱり怖かった。
覚悟なんてできてなかったんです。
じゃあ、なぜそれをするのか?
私は、今も自転車に乗り続けています。もちろん、覚悟なんてないですが。
じゃあ、なんでリスクを敢えてとるのか、っていうと、やっぱりそれが楽しいからですよね。『宇宙兄弟』でムッタもこういってました。
リスクをとれるかどうかって、覚悟とかいう難しいものじゃなくて、もっとこういう、シンプルな気持ちなんですよ、きっと。
リスクをわかっていても、そういう気持ちに素直に従っている姿を見て、人は「覚悟ができてる」って評価するんじゃないでしょうか。
『のだめ』でもそうです。
のだめ自身に、「覚悟」ができているという自覚はないでしょう。
でものだめはどうやったって「演奏者」。だから、ピアノを弾くんですよ。
ピアノが楽しくて、どうやったって離れられないから。
漫画は違いますが、『四月は君の嘘』でかをりがこのことをこんな風に表現していました。
「悲しくてもボロボロでも、どん底にいても、弾かなきゃダメなの。
そうやって私達は、生きてゆく人種なの。」「君は忘れられるの?ううん、絶対に無理!!
私達は、あの瞬間のために生きているんだもん。
君は私と同じ、演奏家だもの。」「みんな怖いよ。舞台に上がるのは。
失敗するかも。全否定されちゃうかもしれない。
それでも歯をくいしばって舞台に上がる。
何かにつき動かされて、私達は演奏するんだ。」
まとめ
今回は、ちょっと真面目に、「覚悟」について思うところを語ってみました。
「覚悟」はしようと思ってできるものでも、自分できてると宣言するものでもなくて、自分の行動に伴って、できてると「評価されるもの」ではないでしょうか。
それは、リスクを理解することとか、きちんとその事象や自分の気持ちに向き合うということとつながっていると思います。
今回も、長くなってしまい申しわけありません。
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
kazu