#7 「失くしてしまったこと」に気づけるか。川村元気『世界から猫が消えたなら』
こんにちは。kazuです。
今日は、佐藤健主演で話題になった、この本を中心にお話します。
恥ずかしすぎる思い出
私がこの本と出会ったのは、高校生のとき。
友達が、国語の授業の読書紹介で薦めていたのを、書店でふと思い出して手に取りました。はじめの何ページかを読むつもりだったんですがやめられず、その場で全部読んで号泣してしまいました。そして周りの人は若干引いてました(笑)。
この本は、そんな恥ずかしい思い出とともにある本です(もちろん、本は気に入ったので後日購入しました。さすがに読んだ直後は泣き過ぎて買えませんでしたが笑)。
この本のいいところ
この本のあらすじは、こんな感じ。
郵便配達員として働く三十歳の僕。ちょっと映画オタク。猫とふたり暮らし。そんな僕がある日突然、脳腫瘍で余命わずかであることを宣告される。絶望的な気分で家に帰ってくると、自分とまったく同じ姿をした男が待っていた。その男は自分が悪魔だと言い、「この世界から何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得る」という奇妙な取引を持ちかけてきた。僕は生きるために、消すことを決めた。電話、映画、時計…僕の命と引き換えに、世界からモノが消えていく。僕と猫と陽気な悪魔の七日間が始まった。二〇一三年本屋大賞ノミネートの感動作が、待望の文庫化! (「BOOK」データベースより)
この『世界から猫が消えたなら』は、好きな人と嫌いな人が半々くらいにはっきり分かれるようですね。その理由は、ケータイ小説っぽい文体とか、設定が甘いこととか、話題になっていて期待が大きかったのに裏切られたとか。
確かに、内容はそんなに濃くないし、分量自体も、立ち読みで読み切れるくらいです。本を全く読まない中1の弟が読んでいたくらいですし。
でも、私は、それがこの作品のいいところだと思うんです。
テーマ自体がすごく重いのに、作品は重くなくて、とっても読みやすい。でも、何か訴えてくるものがある。それって、描き方としては一番難しいと思うので。
ちょっとブレイク
この作品は、前述したように、佐藤健主演で映画にもなりました。
話自体は少し変わってしまっているのですが、これはこれでよくて、私は結構好きです。
あと、友人役の濱田岳の演技が最高に良いです。濱田岳のあの5分ほどの演技に1800円払ってもおつりがくるなあ、と思いました。ぜひ見てみてください。
『世界から猫が消えたなら』の魅力と構図
私は、内容も好きなのですが、この作品のコンセプト自体もすごく好きで。
これは、川村氏本人が、NHKの『あさイチ!』に出演したときにおっしゃっていたことなのですが、川村氏は「誰もがなんとなく感じていながら、声に出さないことを作品にしてみた」そうです。
例えば、落とし物であろうハンカチが、ポストの上に置いてあったとします。ハンカチがおいてあることには誰もが気づいているけれど、敢えて「誰の?」と聞きはしない。そういうことを、あえて声に出して言ってみた、というのがこの作品だそうです。
わかったようなわからないような、という感じですね。
つまり、「潜在意識」を「意識」させようとした、ということです。
そしてまた、この作品は、主人公が「あるものがなくなる」ことによって「そこにあった大切なもの」に気づく、という構図になっています。よくある構図ではありますが、なくすものを「もの」に限定してあります。親とか友達とか、「人」がよく描かれるのですが。
構図が似ている作品
この『世界から猫が消えたなら』を前述したような構図でとらえてみると、小学生の時に読んだこの作品を思い出します。
町はずれの円形劇場あとにまよいこんだ不思議な少女モモ。町の人たちはモモに話を聞いてもらうと、幸福な気もちになるのでした。そこへ、「時間どろぼう」の男たちの魔の手が忍び寄ります…。「時間」とは何かを問う、エンデの名作。小学5・6年以上。(「BOOK」データベースより)
超名作です。私が語るまでもなく。
私は小学4年生の時にこの作品を読んだのですが、面白すぎて何回も読み直したのを覚えています。今読み直しても、内容が深くてめちゃくちゃ面白いです。
この作品の場合、人々がなくすのは「時間」です。
時間が奪われたことで失われたものを、モモの視点から描いています。
時間が奪われてはじめてわかった大切なもの、とは一体何なのか?
読んでない方はぜひ読んでください!
読んだら、ものすごい衝撃を受けると思います。
子どものころ読んだけど……、という人もこの機会にぜひ読み返してください。
新たな発見があると思います。
ふと思い出したあるセリフ
この記事について考えていた時、ふとこの作品のあるセリフを思い出しました。
以前はこの作品の人気の秘密について考察してみましたが……。
#4 大人がはまってしまうのにはわけがある。J.K.ローリング『ハリー・ポッター』×尾田栄一郎『ONE PIECE』 - Connect.(コネクト・ドット)
今回思い出したのは、74巻のこのセリフでした。
「ぼく達だけじゃない…! ウソランドは…
全てを救ってやると……言ってくれたのれす
(中略)
愛する者を失ったことにも気づけない不幸な大人間たちも…‼
ウソランドはみんなを救ってくれる…伝説の英雄なのれす!!!」
(尾田栄一郎『ONE PIECE』74巻 第741話‟うそつきウソランド”より)
74巻は、ドレスローザという国を舞台にしているのですが、そこは実は海賊が支配する国。これは、そんな国にある「闇」が現れているセリフです。
私はこのセリフの「愛する者を失ったことにも気づけない」、というのが、ミヒャエル・エンデ『モモ』に出てくる「時間を奪われた人々」と描かれ方が同じだなあ、と思ったんです。『モモ』で時間を奪われた人々も、自分たちが時間を奪われたことには気づいていないんですよね。
「大事なものは失ってはじめてわかる」と言いますが、このように、「大事なものを失っていることにも気づけていない」ということもあります。
私は、このことに気づいてドキッとしました。
皆さんはどうですか? 「大切なもの」、ちゃんと見えていますか?
まとめ
『世界から猫が消えたなら』は『モモ』でいうモモの視点。
『モモ』の「時間が奪われた世界」は、『ONE PIECE』でいうドレスローザ王国。
今回はこういう構図でまとめてみました。
失ったことに気づけることが幸せなのか、知らぬが仏、なのかはわかりませんが、
失わずとも、「大切なもの」の存在に気づかせてくれるのが「本」の一つの魅力です。
みなさんぜひ、気になったものから手に取ってみてください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
kazu