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「あ、これってあれだ!」とつながった瞬間を語ってみる、ちょっと変わった書評ブログ。

#6 もし、愛に形があるとしたら、それはきっと、√(ルート)みたいな形をしている。小川洋子『博士の愛した数式』

こんにちは。kazuです。

今日は、この本を中心にお話します。

博士の愛した数式 (新潮文庫)

博士の愛した数式 (新潮文庫)

 

心温まるヒューマンドラマ

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。 (「BOOK」データベースより)

小川洋子博士の愛した数式』。映画化して話題になりました。

注意していただきたいのは、この本はあくまでヒューマンドラマで、数学についての話ではないということです。そういうのを期待しすぎると、この本の面白さは半減してしまいます。

読んでいくと、心がほくほくします。そんなお話です。

 

 

この本との出会い

 私とこの本の出会いは、中学生の時。いろんな本を読み漁っていて、確か、新潮の100冊、みたいなリストの中から5冊ほど選んで買ったうちの一冊だったと思います。

この記事の題名になっている、「もし、愛に~」の下りは、「キャッチコピーで本を紹介する」という高校の国語の授業で、私が考えたものです。結構うまくできた(と我ながら思っている)ので題名にしてみました(笑)。

今回は、このコピーに乗っかって、「理系学者×ヒューマンドラマ」について考えてみようと思います。

と、本題に入っていきたいのですが、ちょっとブレイク。

 

併せて読みたい本

本題からはずれてしまうのですが、『博士の愛した数式』と併せて読みたい本をおすすめしておきます。それがこちら。

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

「美しい数学ほど、後になって役に立つものだ」数学者は、はっきりと言い切る。想像力に裏打ちされた鋭い質問によって、作家は、美しさの核心に迫っていく。 (「BOOK」データベースより)

これは、私が高校入学の時に、学校の先生のおすすめ本として紹介されていて読んだ本です。『博士の愛した数式』の著者・小川先生が、数学者の藤原雅彦先生に数学の面白さについて迫るという内容で、インタビュー形式で進んでいきます。

聞き手の小川先生が文系の方なので、話の内容は本当に初歩の初歩という感はありますが、その分、数学が大嫌いな人でも無理なく、苦なく読めます。私も、数学は大嫌いでしたが、この本を読んで数学に対する嫌悪感はなくなりました。

もし、数学についてもっと突っ込んだお話が読みたくなった方は、結城浩数学ガール』シリーズや、桜井進先生の著書などが読みやすくておすすめです。これについては、また追って記事にしようと思います。

 

 

ホーキング博士の物語

話を戻します。

小川洋子博士の愛した数式』には、数学者が登場しますが、同じく学者をテーマにしたお話で最近感動したのがこれです。

博士と彼女のセオリー (字幕版)

博士と彼女のセオリー (字幕版)

これは、実在する天才物理学者、スティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた映画で、エディ・レッドメイン(『レ・ミゼラブル』マリウス役。最近では『ファンタスティック・ビースト』で主演)の素晴らしい演技で話題になりました。

この映画のモデルとなったスティーヴン・ホーキング博士の紹介を簡単に抜粋しておきます。

スティーヴン・ウィリアム・ホーキング(Stephen William Hawking 1942年1月8日 - )は、イギリス理論物理学者である。大英帝国勲章(CBE)受勲(中略)。

一般相対性理論と関わる分野で理論的研究を前進させ、1963年にブラックホールの特異点定理を発表し世界的に名を知られた。1971年には「宇宙創成直後に小さなブラックホールが多数発生する」とする理論を提唱、1974年には「ブラックホール素粒子を放出することによってその勢力を弱め、やがて爆発により消滅する」とする理論(ホーキング放射)を発表、量子宇宙論という分野を形作ることになった。現代宇宙論に多大な影響を与えている人物。(wikipedia〈2017年4月25日時点〉より 参考スティーヴン・ホーキング - Wikipedia

評判通り、エディ・レッドメインの演技が圧巻でした。おすすめです。

 

理系学者×ヒューマンドラマ

この映画を見て、私は、前述した『博士の愛した数式』を思い出したのですが、それと同時に、あることに気づきました。

理系学者×ヒューマンドラマ、の図式の話題作が多い、ということ。特に映画。

理系学者の中でも特に物理学や数学。工学や生物学じゃないんですよね。

見てないものばかりですが、話題作だけでも、

……とまあ、結構あります。正直、文系学者のヒューマンドラマとかあまり聞いたことがないです。(あったらすみません。面白いものがあったら教えてください)

いったい、どうしてなのでしょうか??

 

映画化するとはどういうことか

 まず、そもそも、映画化するとはどういうことか、ということについて考えてみます。

映画の制作には多大な予算と手間と時間がかかります。一朝一夕にできるものではありません。だから、映画製作会社は、ある程度の利益を得られるもの(もちろん、大ヒットしそうなもの)を中心に映画化するんですよね。

つまり、理系学者×ヒューマンドラマの図式に、利益を見込める(多くの観客を動員できる)、ということです。

利益を見込める映画はどんな映画か、というと、やっぱり面白い映画ですよね。

面白い、の要素は人によってさまざまですが、
感動できる、泣ける、波乱万丈、心温まる、笑える
などがキーワードとしてあげられると思います。

じゃあなんで、理系学者を主人公に据えると面白い映画になるんでしょうか?

私は文系畑の人間なので(大学では教育学専攻)、イメージでしかありませんが、少し考察していきたいと思います。

 

理系学者×ヒューマンドラマ=波乱万丈→感動できる 

まず、理系、特に物理や数学を得意とする人って、周りの人から「変わってる」というレッテルが貼られることが多い気がします(すみません)。それが、その人の人生の最初の大きな「壁」となって、ドラマの波を大きくして、面白くするのかな、と。

数学や物理は特に、数式を相手にする学問なので、普通の人、特に文系の人間には、理解不能な、ある意味「異世界」なわけです。それは、観客に「非日常」を感じさせる要素になります。これもまた、ドラマを面白くする一因でしょう。

そういった効果が、感動を呼ぶのかもしれません。

 

 

理系学者×ヒューマンドラマ=心温まる

 周りから理解されない「変わり者」の周りには必ず「理解者」がいます。
そこには必ず「愛」があり、理解する「努力」があります。
まず、そのことが、心温まる展開を生むのでしょう。

 

しかしそれ以上に、理系学者には、いわゆる「いい人」が多い気がします。
私の高校の数学の先生も、「理学部数学科は、変わってるけどいいやつばっかだ」とおっしゃっていました。

これはどういうことなのでしょうか?

これには、数学・物理学を専門とする人の世界のとらえ方や性格がかかわっているのでしょう。

例えば、虚数iってありますよね。

これは、i×i=-1となると定義されている数です。実際には描くこともできません。しかし、理論的には存在するはずの数であり、『博士の愛した数式』で、博士は「心の中にあるんだ」と述べていました。

普通の人なら、たとえiの存在に気付いたとしても、そのままにしておくでしょう。しかし、例えば数学者は、「実生活には必要ないから」と切り捨てるようなことはしないで、それを「i」と名付けて、定義づけて、存在を認めるわけです。

数学者がまるで、「君はそこにいていいよ」って言ってるみたいですね。

私が何を言いたいかというと、彼らは、ある意味底抜けに優しい、ってことです。

それが、理系学者×ヒューマンドラマを心温まる、感動のストーリーにする一番大きな要因だと思います。そして、それを究極的に描いたのが『博士の愛した数式』なのです。

 

素敵な数学者 

最後に、私のお気に入りの一冊をご紹介します。

春宵十話 (角川ソフィア文庫)

春宵十話 (角川ソフィア文庫)

「情緒の中心の調和がそこなわれると人の心は腐敗する。社会も文化もあっという間にとめどもなく悪くなってしまう」―数学者として世界的な難問を解き天才と呼ばれた岡潔は、一方で思想家としても多大な影響を残した。日本の文化を培ってきたのは自然に根差した「情緒」であり、戦後急速に西欧化が進む中、その伝統と叡智が失われることに鋭い警鐘を鳴らす。本質をみつめる精神の根底を語る代表的名著。(「BOOK」データベースより)

 この本は、日本の数学者、岡潔のエッセイ集で、少し前に話題になりました。
前述した「温かさ」みたいなものが感じられるかなと思います。

この本に関しては書きたいことがたくさんあるので、また追って記事にしますが、この記事にも関係あるなあと思い、紹介させていただきました。

 

 

まとめ

 今回は、理系学者×ヒューマンドラマの図式について考えてみました。

ちなみに、文系学者のヒューマンドラマがほとんどないのは、文系学者現実主義的な部分が多いからだと思います(主に統計や文献から研究を行うため)。

もし、紹介したもの以外に面白い作品があれば、教えてください。

 

今日も長くなってしまいました。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

 

kazu